2024年3月21日。その日は2024-25シーズンからのSVリーグの誕生に向けたクラブライセンス判定結果の発表日で、アルテミス北海道が改善要求事項ゼロでVリーグのライセンス認定を無事受け、さらにSV準加盟クラブにも認定されたが、そんな華々しい結果とは対照的に施設基準、財務基準の未充足を理由にVライセンス不交付という屈辱的な結果を女子で唯一下されたのが福岡ギラソールだった。
だが私はむしろ驚いた。福岡ギラソール、ライセンス交付を申請していたのか!と。SVはおろかVでもカノアのように事業規模がある程度ないとライセンスは認定されないと思っていただけに、こう言っては何だがその辺りがまだ弱そうだった福岡ギラソールはどう考えても無理と思っていた。しばしばサイトは見ていたが母体となる親会社があるわけでもなく、見た限りではカノアの森さんみたいな実業家が入っているわけでもなかっただろうし。でも、不交付となるのはわかっていたかもしれないけれど手は挙げたわけで、そこにVリーグ参入にかける強い意気込みが伝わってきたのだ。
こう言っちゃなんだが、福岡にはギラソールもあるぞ、カノアに負けないぞ、くらいの思いに感じたのだ。
そして一年後の2025年3月19日に発表されたクラブライセンス判定結果で、ついに2025/26シーズンからのVリーグのライセンス交付が決まった。しかもVリーグ12チーム中半数の6チームに制裁対象事項(継続審議事項)がある中、それが一つもないという優秀な結果と共に(一方のカノアは施設基準が引っかかった)。とはいえ一連の動きは単に文字(ニュース)で接しただけ。チームとの接点は数か月後に思わぬ形で訪れる。
2025年5月14日。バレーボールとは全く関係ないプロジェクトに関わっていた関係で福岡に滞在していたとき、たまたまつけたテレビのローカルニュースで福岡ギラソールが出てきてびっくりした。
それは、Vリーグ参入を県知事に報告する様子だったが、それがローカルニュースで、しかも各局に取り上げられたところに地元の注目度の高さがうかがえた(こう言っては何だけどSVではなくVで)。しかも数日後に行われた記者発表会もニュースで取り上げられたのだ(こちらのニュースは残念ながら各局のYouTubeにはあがってなかった)。
何より、その会場がスカラエスパシオだったことに驚いた。アイドルのライブでおなじみの場所で私自身も行ったことがあるが(笑)、天神の中心部にあるそこそこ大きな会場。そこで記者発表会をやったところにチームの意気込みが伝わってきた(お金もかかったはず)。そんな発表会の模様を伝えるニュースを探していると…

なんと、監督が大名でバーをやっている、だって? 試合以外でもチームに触れられる絶好の機会ではないか…。そして私は早速この店を訪れた。


福岡市の中心部・天神。観光客よりは地元の人の多いエリアだが、そこにある大名地区は東京で言えば裏原宿、大阪なら西堀江といったところか。そんな街の一角にあるビルの三階に、その店「Tarkey‘s Bar」はあった。
スポーツファンの集まるスポーツバーというものは全国各地にあり、特に野球やサッカーチームのある街に行けばたいていは地元ファンの集まる名物的な店があるのだが、全国に遠征してもバレーボール色の強い店にはなかなか出会えないでいた。ところがここはバレーボール色も何も、ファンやOB・OGでもなく監督がオーナーでありマスターをやっている店。ワクワクして店のドアを開けると、もちろんそこには高尾和行監督…いや、マスターがいた。
それなりにバレオタ歴は長いが、チーム関係者と接することはほとんどなかったし、ましてやチームスタッフ…いやいや、監督と話せるなんて! この店は私にとっては天国だった。監督にメニューのない、ギラソールのカクテルを作ってもらったほど(笑)。それ以降もプロジェクトで福岡に行くことが度々あり、そのたびに足を運ばせていただいた。なにせ大名地区にあるのでアクセスもいいし、終電後もやっている。そしてたぶん来ている人たちのほとんどが、この人がバレーボールチームの監督だということをあまり知らないのでは…気のいいマスターのいる店、と認識されているのではないだろうか。


そして偶然にもそこに貼られていたスポンサーのチーズ店が、借りていたウィークリーマンションのすぐ近くにあったので足を運んでギラソールの話をした。今まで、そのご当地アイドル関連の話をしていた福岡の街で、地元のバレーボールチームの話をするようになるとは! 私の福岡市民度がさらに上がった気がした。ちなみにそこに所属(と言っても店頭にいるというわけでもないようだが)しているのがアルテミスから移籍した、23/24シーズンに何度も見た真田知紗都選手というのも何かの縁を感じずにはいられなかった(真田選手はビーチバレーでの加入)。



さて。福岡ギラソールの監督であり、「Tarkey‘s Bar」のオーナー&マスターでもある高尾和行さん。あいにく私はバレーボールに興味を持ったのが2015年からで、ましてやビーチバレーには詳しくないので、全く存じ上げていなかった。私の中での印象はかつてチームの監督を務め、そして後継チームに移れなかった福岡春日シーキャッツの選手たちを引き取って、受け皿となるチームを立ち上げた人。当然一から立ち上げるわけで運営はおろかスポンサー集めも大変だっただろう。でも何より、行き場を失った選手たちのことを思ってのことだったのでは…。そんな男気溢れる人。そう思う。
ちなみにギラソールというチーム名は、かつて同じ福岡県の北九州市に住友金属ギラソールという男子チームがあり、そこに高尾監督もかつて選手として所属していたのだが、1998年に廃部になってしまった。なので男女は違えどいわば長い時間を経て同じ福岡でチームを復活させたと言える。
そんなギラソール。カノアとの大きな違いはそのエリアで、カノアが福智町という筑豊地方を拠点としているのに対して、ギラソールは福岡市と都心型と完全に棲み分けができている。ホームゲームも25/26シーズンはカノアが田川や飯塚が中心で、ギラソールは福岡市が中心だ(完全に棲み分けされてなくて多少のエリアの被り・近接はあるが)。
観客動員やスポンサー獲得では都心部にあるギラソールの方が有利に感じるが、上述した体育館の建設など、カノアは地域との協業という側面が強く、特徴の異なる両チームが切磋琢磨していいライバル関係となって福岡を盛り上げていくのでは…という楽しみがある。同じ県に二つのチームがあるのは女子では岡山(岡山シーガルズと倉敷アブレイズ)と福岡だけだが、岡山はカテゴリは別なのでリーグ戦での対戦もない。


カノアも面白いチームだが、ギラソールもまた十分面白いチームだ(繰り返すけれど監督がバーのマスターだし)。しかも私の大好きな福岡市のチーム。5000人規模のアリーナは既にある(照葉)し、さらにBリーグ・ライジングゼファー福岡のために新アリーナの建設も決まったので、SVリーグの要件も満たしている。監督と親しくさせていただき、そしてスポンサーの店に足を運んだこともあり、これはぜひ一度試合を見なければと思った。
そしてそれは11月に訪れる。偶然にも対戦相手はこちらも思い入れのあるアルテミス。その時点で両チームとも0勝と苦戦しているが、逆に言えばどちらかが初勝利を収める。果たしてどんな勝負になるのか…